悪役令嬢は世界のバグを修正する
学園の中央部には、
今では誰も使わない広場がある。
生徒たちはそこを、
ただの古い石畳の空間だと思っていた。
授業にも使われず、
祭事にも使われず、
待ち合わせ場所にするには広すぎて落ち着かない。
だから普段は、
誰も近づかない。
かつてそこには、
礼堂が建っていた。
学園創設以前から存在した、
古い祈りの建物。
だが数十年前の火災で焼失し、
再建されることはなかった。
残されたのは、
土台だけだ。
石造の円形広場。
焼け跡を削り、
平らに均された床面。
ところどころに黒ずんだ石が混じり、
過去の痕跡だけが静かに残っている。
昼間であっても、
この場所だけは妙に音が響く。
足音が遅れて返り、
風が中央へ吸い込まれていく。
誰も理由を知らない。
ただ、
落ち着かない場所として避けられてきた。
レティシアがそこへ足を踏み入れた時、
石畳の下で何かが微かに脈打った。
見えないはずの線が、
視界の奥で薄く浮かぶ。
地下に眠る古代回路。
地中深く埋め込まれた、
礼堂の基礎構造と一体化した旧式システム。
今の人間には意味も用途も分からず、
ただ遺構として放置されているもの。
だが、
レティシアには分かった。
これはただの石ではない。
流れを通すための道だ。
世界の処理を補助する、
古い経路の残骸だ。
同時に、
広場の周囲へ白い光が走る。
神殿側が展開した制御術式。
柱も詠唱もなく、
空間そのものへ刻み込まれるように結界が立ち上がる。
古代回路の脈動と、
神殿術式の固定化。
相反する二つの力が、
この場所で重なり始めていた。
石畳が軋む。
風向きが変わる。
空気がわずかに震える。
まだ誰も動いていない。
まだ戦いは始まっていない。
それでも広場全体が、
これから起こる衝突を理解しているかのようだった。
礼堂跡地。
祈りの場所として始まり、
忘れられた遺構となり、
今また別の意味を持つ。
管理する者と、
触れてしまった者。
制御と権限。
その相克を受け止める舞台として、
これ以上なく相応しい場所だった。