悪役令嬢は世界のバグを修正する
報告が終わっても、
円卓の上にはすぐに言葉は戻らなかった。
重い沈黙。
誰もが問題の大きさは理解している。
だが、
どう解釈するかは別だった。
やがて、
右列の中央に座る有力貴族が、
ゆっくりと手袋を外した。
灰銀の髪を持つその男は、
先ほどと同じ余裕の笑みを浮かべている。
まるで結論は最初から決まっていると言わんばかりに、
軽く喉を鳴らした。
「つまり原因は混乱です」
静かな声だった。
だが、
それは会議の方向を決める言葉だった。
「神殿事件以後、秩序が乱れた」
「統制が緩み、各地で勝手な動きが出ている」
彼は指を組み、
円卓をゆっくりと見渡す。
「余計な改革論など不要」
「まずは統制を強化すべきでしょう」
簡潔だった。
単純だった。
だからこそ、
頷く者もいた。
秩序を戻す。
統制を強める。
それは聞こえがいい。
責任の所在も曖昧にできる。
今ある仕組みを守りながら、
強く締め直すだけでいい。
誰かが小さく賛同の声を漏らす。
別の貴族が顎を引く。
空気が、
その方向へ流れかけた。
その時だった。
レティシアの視界に、
強いノイズが走る。
ERROR SOURCE
FALSE REPORT
RESOURCE LOCK
NOBILITY
流れの線がはっきりと見えた。
畑から運ばれた資源が、
市場ではなく別の場所へ引き込まれている。
流通が詰まっているのではない。
意図的に止められている。
原因は混乱ではない。
秩序の崩壊でもない。
人為的な偏り。
選別。
囲い込み。
“誰か”が、
流れを握っている。
レティシアの指が、
わずかに机を押した。
これまで、
彼女は黙っていた。
見習い席。
発言権のない場所。
だが今、
その線の歪みは、
無視できるものではなかった。
「……違います」
声は小さかった。
だが、
円卓の中央まで届いた。
一瞬、
誰も反応しなかった。
次の瞬間、
全員の視線が一斉に動く。
王。
貴族。
官僚。
軍人。
すべての目が、
端の席に座る少女へ向けられた。
静寂が落ちる。
会議の流れが、
完全に止まった。
レティシアは、
その視線の中心で静かに座っていた。
逃げる気も、
引く気もない。
この一言で、
円卓は割れる。
誰もがそれを理解していた。
次の言葉が、
この国の進む方向を変える。