悪役令嬢は世界のバグを修正する
夜会の灯りが、
王都の上層を淡く照らしていた。
音楽。
笑い声。
グラスの触れ合う乾いた音。
一見すれば、
ただの社交の場。
だが、
ここでもまた、
別の“契約”が結ばれている。
広間の奥、
人目を避けるように置かれた小さな席。
有力家の当主が向かい合っていた。
「娘の件だが」
静かな切り出し。
もう一人が、
ゆっくりと頷く。
「聞いている」
それ以上の説明はない。
必要ない。
互いに理解している。
これは縁談ではない。
同盟だ。
「形式はどうでもいい」
低い声が続く。
「名目だけ整えば十分だ」
家同士が繋がる。
血で。
それは、
契約よりも強い拘束になる。
「……了承しよう」
短い言葉。
それだけで、
一つの線が結ばれる。
別の場所。
同じ夜会の中で、
似たような会話がいくつも交わされていた。
「次男をそちらへ」
「代わりにこちらの支援を」
「条件は共有で」
「異論はない」
一つ一つは小さい。
だが、
それらが積み重なる。
点が線になり、
線が網になる。
やがて、
一つの形を作る。
派閥。
明確な名前はない。
だが、
同じ方向を向く者たち。
利害を共有し、
動きを揃える集団。
王宮の高窓から、
その夜会を見下ろす影があった。
若き王。
彼は何も言わない。
ただ、
静かに見ている。
広間に広がる光。
笑い合う貴族たち。
だが、
その裏で何が起きているかを、
理解している。
線が増えている。
繋がりが強くなっている。
個別だったはずの貴族たちが、
一つの塊になり始めている。
(……囲われる)
心の奥で、
言葉が沈む。
正面からではない。
だが確実に、
包囲が進んでいる。
王家を中心に、
外側から。
逃げ道を残さない形で。
その頃、
レティシアは別の場所にいた。
宿舎の窓辺。
遠くに見える王宮の灯りを、
ただ見ている。
視界の奥に、
静かな表示が浮かぶ。
CONNECTION MAP
EXPANDING
POWER BLOCK
FORMING
線が増えている。
人と人。
家と家。
利害と利害。
それらが結びつき、
一つの巨大な構造になっていく。
(止めてる……)
流れを。
物だけではない。
決定も。
変化も。
すべてが、
囲まれている。
王家。
改革。
そして――
自分たち。
王都の夜は静かだった。
だがその裏で、
すでに完成している。
見えない包囲網が。
政治的な戦場が。