悪役令嬢は世界のバグを修正する
夕暮れの王都は、
いつもと同じ色をしていた。
市場には人がいる。
店は開いている。
子どもが走り、
商人が声を張り上げる。
何も変わっていないように見える。
だが――
レティシアには、
違って見えていた。
人の流れ。
物の流れ。
言葉の流れ。
そのすべてが、
どこかで歪んでいる。
見えない壁にぶつかり、
方向を変えられ、
細く絞られていく。
自然ではない。
作られた流れ。
意図された停滞。
彼女の視界に、
淡い表示が浮かぶ。
INFORMATION FLOW
CONTROLLED
RESOURCE FLOW
RESTRICTED
情報は選ばれ、
資源は止められている。
街全体が、
静かに“管理されている”。
隣で、
カイルが腕を組んだまま呟く。
「……もう戦場だな」
軽い口調。
だが、
その目は笑っていない。
彼にも分かっている。
これは偶然じゃない。
全部繋がっている。
契約。
税。
噂。
それぞれが別に見えて、
一つの結果を作っている。
流れを止めるという結果を。
レティシアは、
ゆっくりと息を吸う。
(これは戦闘じゃない)
剣はない。
魔法もない。
誰も傷ついていない。
(でも同じ)
奪われている。
動きを。
選択を。
未来を。
(流れを止めてる)
それが、
この戦いの本質だった。
見えない場所で、
誰にも気づかれずに、
確実に効いてくる。
気づいた時には、
もう遅い。
カイルが小さく息を吐く。
「正面から殴ってくる方が、まだマシだな」
苦笑に近い声。
レティシアは答えない。
ただ、
街の流れを見ている。
止められたものを。
歪められたものを。
そして――
戻すべきものを。
剣は抜かれていない。
だが、この国はすでに戦っていた。