悪役令嬢は世界のバグを修正する
夜の宿舎。
窓の外には、
王都の灯りが広がっていた。
遠くの大通りはまだ明るい。
遅くまで開いている店、
行き交う人影、
かすかに聞こえるざわめき。
だが――
その光景には、
どこか歪みがあった。
カイルは窓枠に背を預け、
腕を組んだまま外を見ている。
市場は混乱している。
物価は上がり、
品は足りず、
人は苛立っている。
それは分かる。
だが、
どうしても引っかかる。
「……おかしいんだよな」
小さく呟く。
誰に向けた言葉でもない。
ただ、
思考を外に出すための声。
視線は、
街の奥へ向いている。
荷車が止まっている。
列ができている。
口論が起きている。
――困っている人間は、確かにいる。
だが。
(全員じゃない)
カイルの目が細くなる。
同じ通りの中で、
動きが違う場所がある。
奥の倉庫。
灯りが落ちていない。
出入りする人影。
積み上がる荷。
止まっていない。
むしろ――
増えている。
別の通りでも同じだ。
空いているはずの倉庫が埋まり、
止まっているはずの物資が動いている。
だがそれは、
市場には出てこない。
(減ってるんじゃない)
(出てないだけだ)
思考が、
一つの形を取り始める。
「……全員が損してるわけじゃない」
声が低くなる。
むしろ逆だ。
この状況で、
利益が出る形がある。
供給が減り、
価格が上がる。
その時――
持っている側は、
強くなる。
カイルの視線が、
一点に止まる。
倉庫の奥。
積まれたままの荷。
出されない物資。
(いるな)
確信に変わる。
(得してるやつが)
市場の混乱は、
偶然じゃない。
事故でもない。
誰かにとって都合がいい形で、
起きている。
だから続いている。
だから止まらない。
カイルはゆっくりと窓から離れた。
思考の輪郭が、
はっきりしていく。
「……探せば出るな」
誰が。
どこで。
何を握っているのか。
それが分かれば、
この歪みの正体も見える。
机の上の資料に視線を落とす。
まだ断片だ。
だが、
繋がる。
この違和感は、
ただの感覚じゃない。
構造だ。
その確信だけを残して、
カイルは椅子に腰を下ろした。