悪役令嬢は世界のバグを修正する
翌朝。
まだ霧の残る王都の通りを、
カイルは歩いていた。
宿舎に籠もっていても、
答えは出ない。
「現場だな」
短く呟き、
足を止めない。
最初に向かったのは、
市場の裏手。
表の喧騒から一歩外れた、
荷が出入りする場所。
積み下ろしをしていた商人に、
カイルは声をかけた。
「最近、荷の入りどうだ?」
唐突な問い。
だが男は、
愚痴を溜めていたのか、
すぐに口を開いた。
「最悪だよ。来るには来るが、回ってこねぇ」
「量は?」
「減ってねぇ。むしろ多い日もある」
カイルの目が細くなる。
「なのに店に出ない?」
「ああ。途中で止まってる」
「どこで」
商人は肩をすくめた。
「倉庫だろうな。俺らには分からん」
十分だった。
カイルは軽く手を上げて礼をし、
その場を離れる。
次に向かったのは、
倉庫街。
石造りの巨大な建物が並び、
重たい扉が連なっている。
だが、
様子がおかしい。
閉じられている倉庫。
動いている倉庫。
その差が極端だ。
カイルは一つ一つ、
外から様子を確認していく。
「……ここは満杯」
扉の隙間から見える、
ぎっしり詰まった荷。
別の倉庫。
「こっちは閉鎖」
張り紙。
契約更新。
また別の場所。
「……ここも同じか」
埋まっているか、
閉じているか。
中間がない。
(調整してるな)
自然な状態ではない。
意図的な配置。
昼に近づく頃、
カイルは中央市場に戻っていた。
今度は数字だ。
掲示板に貼られた価格表。
昨日。
一昨日。
その前。
紙をめくり、
指でなぞる。
「……上がり方が一定すぎる」
急騰ではない。
段階的。
制御された上昇。
(誰かが触ってる)
自然変動じゃない。
操作だ。
最後に向かったのは、
西物流門。
荷車が並び、
兵士が検査をしている。
カイルは少し離れた位置で、
その流れを観察する。
止められる荷。
通される荷。
その違いを、
目で追う。
「……記録はあるか?」
近くにいた下級役人に声をかける。
訝しげな顔。
だが、
カイルは自然に言葉を続ける。
「通行数の確認だ。照合したい」
完全な嘘ではない。
男は渋々、
簡易帳簿を見せた。
日付。
数量。
許可印。
カイルの視線が走る。
「……多いな」
通行量は増えている。
明らかに。
それでも、
市場は空だ。
(確定だな)
情報が、
一本の線にまとまり始める。
収穫はある。
輸送もされている。
だが、
届かない。
どこかで止まっている。
カイルは帳簿を閉じ、
軽く返した。
「助かった」
役人は何も言わない。
興味もない。
だが、
それでいい。
必要なのは、
現場の断片だ。
夕方。
再び宿舎へ戻る。
靴には埃。
手には紙束。
頭の中には、
断片的な情報。
だが、
それはもう断片ではない。
繋がり始めている。
「……見えてきた」
小さく呟く。
これは推測じゃない。
現場から拾った事実だ。
足で集めた、
動かない証拠。
そのすべてが、
一つの結論へ向かっている。