悪役令嬢は世界のバグを修正する
宿舎の机の上に、
紙が広がっていた。
雑然としているようで、
すべてに意味がある。
収穫報告。
輸送記録。
市場価格表。
倉庫使用状況。
カイルは椅子に深く腰掛け、
その中央に視線を落としている。
指先で一枚を引き寄せる。
「……収穫量」
目を走らせる。
平年並み。
大きな減少はない。
「次……輸送」
別の紙へ。
数値を追う。
増えている。
去年より、
明らかに多い。
「じゃあ――市場は?」
価格表を手に取る。
供給量の欄。
減っている。
はっきりと。
カイルの眉がわずかに寄る。
さらに別の資料。
倉庫の使用率。
九割以上。
ほぼ満杯。
そして、
最後に価格。
上昇。
段階的に。
綺麗すぎるほどに。
カイルは、
ゆっくりと紙を机に戻した。
視線は動かない。
頭の中で、
数字が並び替えられていく。
収穫はある。
輸送もされている。
だが、
市場には出ていない。
代わりに、
倉庫は埋まっている。
そして価格が上がる。
沈黙。
数秒。
いや、
思考としては一瞬だった。
「……おかしいだろ」
低く呟く。
これは偶然では成立しない。
どこかで帳尻を合わせなければ、
こうはならない。
(消えてるんじゃない)
頭の中で、
答えが形を取る。
(ある)
確かに存在している。
(“止められてる”)
それだけだ。
供給が減ったのではない。
供給が、
止められている。
意図的に。
カイルは椅子から少し前に身を乗り出した。
指で机を軽く叩く。
トン、
トン、
トン。
リズムが、
思考と重なる。
「……誰がやってる」
問いは短い。
だが、
答えはもう遠くない。
数字は嘘をつかない。
嘘をつくのは、
人間だ。
なら、
この歪みは――
必ず“意志”がある。
カイルの目が、
静かに鋭くなる。
次にやるべきことは、
決まっていた。
この数字の裏にいる人間を、
引きずり出すことだ。