悪役令嬢は世界のバグを修正する
夜は更けていた。
机の上の紙はさらに増え、
乱雑だった配置が、
いつの間にか“配置”に変わっている。
カイルは一枚の紙を取り上げ、
その端に印をつけた。
「西物流門……管理権者」
視線を落とす。
記載された名前。
公爵家。
そのまま、
別の紙を引き寄せる。
倉庫台帳。
同じ紋章。
同じ家名。
「……門と倉庫、両方か」
小さく呟く。
流れの入口と、
溜める場所。
その両方を、
同じ手が握っている。
次の資料。
魔導資源の採掘許可証。
侯爵家の印。
供給の源。
それもまた、
個別ではない。
さらに紙をめくる。
輸送契約一覧。
中継を担う伯爵家。
街道ごとに名前が並ぶ。
分散しているように見えて、
結局は同じ層に収まっている。
最後に、
商会の契約書。
専属。
優先供給。
取引制限。
それぞれに、
異なる家の名。
だが、
線を引けば繋がる。
カイルは机の上に紙を並べ直した。
一枚一枚が、
点になる。
そして、
指でそれらをなぞる。
入口。
中継。
保管。
供給。
すべての位置に、
名前がある。
バラバラではない。
繋がっている。
「……全部だな」
低く吐き出す。
流れの要所。
そのすべてが、
貴族の手の中にある。
自然な市場ではない。
自由な流通でもない。
構造として、
握られている。
カイルは背もたれに体を預け、
天井を見上げた。
一つの疑問が、
はっきりと形になる。
「じゃあ、止められるわけだ」
入口を押さえ、
途中を選び、
出口を閉じる。
それができるなら――
流れは、
自由に調整できる。
増やすことも、
減らすことも、
止めることも。
すべて、
“意志で”。
机の上に、
見えない線が浮かび上がる。
点と点が結ばれ、
一つの構造になる。
FLOW CONTROL
COMPLETE
そんな表示が見える気がした。
カイルはゆっくりと身を起こした。
もう疑いではない。
これは仕組みだ。
そしてその仕組みは、
偶然では作れない。
意図して作られている。
守るために。
利益を。
自分たちの流れを。
カイルの口元が、
わずかに歪んだ。
「……そりゃ手放さねぇよな」
これが、
敵の形だった。