悪役令嬢は世界のバグを修正する
机の上の紙を、
カイルはもう一度並べ直した。
収穫。
輸送。
倉庫。
市場。
価格。
バラバラだった情報が、
今は一列に並んでいる。
流れとして。
指先で、
最初の紙を叩く。
「ここは正常」
収穫量。
問題はない。
次。
「ここも正常」
輸送量。
むしろ増えている。
だが――
次の段階で、
止まる。
倉庫。
カイルの指が止まる。
「……ここだな」
静かに呟く。
市場へ行くはずの物資が、
ここで止められる。
出さない。
あえて。
その結果――
供給が減る。
市場に並ぶ量が少なくなる。
人は買えなくなる。
焦る。
そして――
価格が上がる。
カイルは価格表に視線を落とした。
段階的な上昇。
急激ではない。
じわじわと。
逃げ場を奪うように。
「……綺麗すぎる」
自然なら、
こうはならない。
乱高下する。
崩れる。
だがこれは違う。
制御されている。
そして、
ある点で止まる。
“十分に上がったところで”。
カイルの視線が、
再び倉庫の資料へ戻る。
(ここで出す)
溜め込んだ物資を、
一気にではなく、
選んで、
切り分けて、
高値で流す。
買う側は、
すでに選択肢を失っている。
高くても買うしかない。
結果――
利益は最大になる。
カイルは椅子に深くもたれた。
頭の中で、
一連の流れが完全に繋がる。
止める。
減らす。
上げる。
売る。
それだけだ。
単純な構造。
だが、
完璧に機能している。
「……意図的だな」
低く言う。
これは事故ではない。
失敗でもない。
設計だ。
利益を最大化するための。
供給制限。
市場を締め付けることで、
価値を吊り上げる。
その中心にあるのは、
一つの事実。
「握ってる側が、全部決めてる」
流れを。
タイミングを。
価格を。
カイルは机の上の紙を、
軽く指で押さえた。
紙の向こうに、
見えないものがある。
人の意思。
選択。
そして――
利益。
「……そりゃ潰しに来るわけだ」
レティシアの提案が、
何を壊すのか。
もう理解している。
この仕組みそのものだ。
流れを戻すということは、
この“操作”をできなくするということ。
カイルの目が、
静かに細められる。
敵は、
強い。
だが――
単純だ。
だからこそ、
壊し方も見える。