悪役令嬢は世界のバグを修正する
宿舎の部屋。
壁一面に貼られた紙と、
張り巡らされた線。
その中心に、
カイルは立っていた。
扉が静かに開く。
レティシアが入ってくる。
一瞬、
視線が止まる。
壁を埋め尽くす情報。
交差する線。
浮かび上がる構造。
彼女の視界にも、
それは“流れ”として見えていた。
「……終わったの?」
静かな問い。
カイルは振り返らない。
少しだけ顎を上げ、
壁を見たまま答える。
「終わったっていうか……見えた」
短い言葉。
だが、
その重さは違う。
レティシアは一歩近づく。
線を目で追う。
入口。
中継。
倉庫。
市場。
すべてが繋がっている。
(……止められてる)
彼女の中の理解と、
完全に一致する。
カイルがようやく振り向いた。
その目は、
冷静だった。
怒りでも、
焦りでもない。
ただ、
答えに到達した目。
「なあ」
軽く声をかける。
レティシアが視線を向ける。
一瞬の沈黙。
カイルは肩をすくめるようにして、
口を開いた。
「反対してるんじゃない」
言葉が落ちる。
部屋の空気が、
わずかに張り詰める。
一拍。
その意味が、
静かに広がる。
そして、
続ける。
「損するから潰しに来てるだけだ」
それが結論だった。
飾りも、
理屈もない。
ただの事実。
レティシアは何も言わない。
否定も、
驚きもない。
ただ、
理解する。
(守ってるんだ)
自分たちの流れを。
自分たちの利益を。
それが壊れるから、
止める。
それだけ。
カイルは壁に軽く視線を戻した。
「思想とか、正義とか」
小さく吐き出す。
「そんなもんじゃねぇよ、これ」
線の一つを指でなぞる。
「全部、金だ」
動機は単純だ。
だからこそ、
強い。
レティシアの視界に、
静かな表示が浮かぶ。
ERROR SOURCE
IDENTIFIED
原因は、
明確になった。
神殿とは違う。
だが、
構造は同じ。
流れを止めるもの。
レティシアは小さく息を吸う。
そして、
静かに言う。
「……じゃあ」
視線は、
壁の中心へ。
「そこを壊せばいい」
カイルの口元が、
わずかに歪む。
「そういうことだ」
戦い方が、
決まった瞬間だった。