悪役令嬢は世界のバグを修正する
夜の王都。
改革採択の熱気は、
もう表通りから消え始めていた。
市場では、
人々がまだ半信半疑のまま噂を交わしている。
王宮では、
官僚たちが新制度準備に追われている。
軍補給路でも、
再編成が始まっていた。
世界は、
少しずつ動き出している。
だが――
見えない場所でも、
別の流れが動き始めていた。
王都南区。
細い裏路地。
深夜、
一台の荷車が横転する。
積まれていた書類箱が、
泥水の中へ散乱した。
偶然の事故。
誰もがそう処理する。
だが、
箱の中に入っていたのは、
試験州向け流通許可証の写しだった。
翌朝には、
一部が消えていた。
別の場所。
小規模商会の主人が、
突然契約を打ち切られる。
理由は不明。
融資も止まり、
倉庫利用許可も失う。
「上から止めろと言われた」
仲介商は、
それ以上何も言わない。
王都新聞では、
小さな記事が載る。
“試験州で混乱発生か”
内容は曖昧。
だが、
不安だけは残る書き方。
さらに数日後。
地方から報告が届く。
「王家が地方徴税を強化するらしい」
そんな噂が広がっている。
出所不明。
だが、
不自然なほど速く広まっていた。
王宮内部でも変化が起きる。
一部官僚の動きが鈍い。
書類処理が遅れる。
通達が途中で止まる。
命令系統が、
わずかに歪み始めていた。
そして――
夜道。
レティシアたちの馬車が通過した直後、
高所から石材が落下する。
轟音。
砕け散る石。
あと数秒遅ければ、
直撃していた。
カイルが即座に周囲を確認する。
だが、
姿はない。
ただ、
暗闇だけが残っている。
彼は低く呟いた。
「……始まったな」
レティシアは、
砕けた石を静かに見下ろしていた。
理解している。
もう、
公開討論ではない。
王宮会議でもない。
正論と数字で押し切る段階は終わった。
これから始まるのは、
もっと見えない戦い。
事故。
噂。
買収。
妨害。
失踪。
誰が敵か、
どこから来るかも分からない。
視界の奥に、
淡い表示が浮かぶ。
THREAT TYPE
UNDEFINED
INFORMATION WARFARE
ACTIVE
SYSTEM INTERFERENCE
DETECTED
レティシアは静かに目を細める。
流れは動き始めた。
だからこそ、
今度は――
流れを壊す側が、
見えない場所から現れる。