悪役令嬢は世界のバグを修正する
夜明け前の王都は、
まだ薄暗かった。
空気は冷え、
街路には湿った静けさが残っている。
だが――
以前とは違っていた。
市場通り。
閉ざされていた店の一つが、
ゆっくりと扉を開ける。
眠そうな店主が、
外へ木箱を運び出した。
並ぶ量は少ない。
品数も十分ではない。
それでも、
昨日までは空だった棚に、
確かに商品が置かれていく。
通りの向こうでは、
小さな荷車が石畳を進んでいた。
車輪の音が、
静かな朝に響く。
止まっていた輸送路。
詰まり続けていた流れ。
その一部が、
ゆっくり動き始めている。
倉庫街でも変化が起きていた。
巨大倉庫の一角。
今まで閉ざされていた搬出口が開き、
兵士と役人が積荷確認を行っている。
放出量は限定的。
監視も厳しい。
だが、
確かに“出ている”。
それだけで、
現場の空気は違った。
王都南区では、
小規模市場が再開されていた。
簡易天幕。
少量の穀物。
乾燥野菜。
保存肉。
以前の活気には程遠い。
それでも、
人々は立ち止まり、
値段を確認し、
実際に買っている。
流れが存在している。
その事実が、
不安の底に小さな変化を作っていた。
高所から街を見下ろすレティシアの視界に、
淡い表示が浮かぶ。
SYSTEM STATE
PARTIAL RELEASE
RESOURCE FLOW
RECOVERING
POLITICAL RESISTANCE
ONGOING
“回復”。
まだその段階ですらない。
戻ったわけではない。
安定もしていない。
貴族の抵抗は続いている。
地方不安も消えていない。
水面下では、
新しい妨害も始まっている。
それでも――
完全停止ではなかった。
止まっていた流れが、
少しずつ、
動き始めている。
レティシアは静かに目を閉じる。
その背後で、
朝日がゆっくりと王都を照らし始めていた。
国はまだ変わっていない。
だが――
止められていた流れは、
確かに動き始めていた。