悪役令嬢は世界のバグを修正する
改革採択から、
数週間が過ぎていた。
王都の空気は、
まだ完全には安定していない。
市場価格は高いまま。
地方との摩擦も残っている。
貴族たちの抵抗も、
決して終わってはいない。
だが――
以前とは、
確かに何かが違っていた。
朝の市場通り。
石畳の上を、
荷車がゆっくり通っていく。
軋む車輪の音。
積まれた穀物袋。
乾燥野菜の木箱。
量はまだ少ない。
だが、
止まってはいない。
以前の王都は違った。
物は届かず、
店は閉まり、
人々は列に並ぶだけだった。
“待つ”しかなかった。
今は違う。
小規模市場が、
少しずつ再開している。
露店商が声を張り、
小商人が商品の値段を相談し、
買い手が比較を始めている。
流れが戻り始めていた。
倉庫街でも変化がある。
閉ざされていた巨大扉が開き、
役人と商会員が積荷確認を行っている。
以前のような、
完全封鎖ではない。
限定的でも、
“出る”ようになった。
その変化だけで、
現場の空気はまるで違った。
軍補給路でも、
停滞はかなり減っていた。
王家直轄輸送路を使った物資が、
各駐屯地へ届き始めている。
補給局の兵士が、
山積みだった不足報告書を整理しながら呟く。
「……ようやく回り始めたな」
それは大げさな歓喜ではない。
現場の人間だけが持つ、
小さな安堵だった。
王都南区。
低所得地区でも、
少しだけ変化が見えていた。
パンを半分に割っていた家族が、
今日は一つ余分に買っている。
痩せた子供が、
市場の匂いへ顔を向ける。
まだ足りない。
だが、
昨日よりは少しだけマシ。
その“少し”が、
この国には長く存在していなかった。
そして何より変わったのは、
人々の会話だった。
以前は違った。
「いつ尽きる」
「どこまで上がる」
「もう駄目だ」
そんな言葉ばかりだった。
今、
市場の隅から聞こえるのは、
別の話。
「次の輸送はいつ来る?」
「北区でも市場再開するらしい」
「試験州の価格が下がったってよ」
“次”の話。
未来の話。
それが、
王都へ戻り始めていた。
高所から街を見下ろすレティシアの視界に、
淡い表示が浮かぶ。
RESOURCE FLOW
STABILIZING
MARKET RESPONSE
GRADUAL RECOVERY
SOCIAL OUTLOOK
FUTURE PROJECTION RESUMED
完全回復ではない。
まだ不安定だ。
壊れかけた構造も、
敵対勢力も残っている。
だが――
この国はもう、
止まり続けるだけの国ではなくなっていた。