悪役令嬢は世界のバグを修正する
王宮・執務室。
夜は深く、
広い部屋には静寂が落ちていた。
窓の外では、
王都の灯りが遠く揺れている。
改革採択から数週間。
国内では、
少しずつ流れが戻り始めていた。
だがその裏で、
別の報告が増えている。
王は机に置かれた書類へ目を落としていた。
その表情は険しい。
側近が静かに追加資料を差し出す。
「南方商会連合より報告です」
「魔導触媒の搬入量が急減しています」
王の眉がわずかに動く。
「理由は?」
「不明です」
「契約上の問題は存在しません」
「ですが、複数商会が同時に“調整中”を理由に停止しています」
王は黙って資料を読む。
魔導素材価格。
輸入量。
外貨流通。
数字の変動は、
一見すると小さい。
だが、
タイミングが不自然だった。
改革後、
ほぼ同時に動いている。
別の側近が口を開く。
「北方でも似た動きがあります」
「穀物流通価格が急変」
「こちらの市場開放に合わせるように、
外部価格が吊り上がっています」
さらにもう一枚。
外交報告書。
周辺国の使節反応。
“王家による市場介入への懸念”
“地域経済均衡への影響”
妙に早い。
まだ国内試験導入段階だ。
それなのに、
外部の反応が整いすぎている。
王は静かに椅子へ背を預けた。
視線が窓の外へ向く。
王都は今、
少しずつ回復し始めている。
止まっていた流れが、
ようやく動き出した。
だがその瞬間に、
国外が反応している。
偶然とは思えなかった。
王は低く呟く。
「……国外も絡んでいるのか?」
その言葉に、
部屋の空気が静まる。
誰も答えられない。
だが全員が理解していた。
これはもう、
国内政治だけの問題ではない。
貴族との権力闘争でもない。
物流。
市場。
技術。
魔導資源。
それら全部が、
もっと大きな枠組みの中で動いている。
王は再び資料へ視線を落とす。
外部商会。
国際市場。
神殿承認。
点だったものが、
ゆっくり線になり始めていた。
そしてその線は、
王国の外側へ伸びている。
敵は、
国内だけではない。
その気配が、
静かに王宮へ入り込み始めていた。