悪役令嬢は世界のバグを修正する
旧神殿地下資料庫。
王都中央神殿のさらに下層。
今では封鎖区画として扱われている場所だった。
石壁には古い封印術式。
空気は冷たく、
長い年月閉ざされていた匂いが残っている。
灯りは弱い。
魔導灯の青白い光が、
暗い通路を細く照らしていた。
レティシアは、
主任と数名の記録官を伴って地下を進む。
今回見つかったのは、
旧管理文書保管区画。
通常閲覧記録に存在しない、
未整理の封印庫だった。
重い扉が軋みながら開く。
中には、
大量の古文書棚が並んでいた。
積もった埃。
劣化した封印札。
だが、
不思議なほど資料保存状態は良い。
まるで、
“必要になった時のため”に残されていたようだった。
主任が静かに呟く。
「意図的に隠されていますね」
レティシアは返答せず、
最前列の資料へ手を伸ばす。
古い革装丁。
神殿上級管理印。
開いた瞬間、
目に飛び込んできた文字に、
空気が変わる。
“流通自由化危険性”
次の資料。
“技術拡散抑制計画”
さらに別の記録。
“周期的停滞管理について”
レティシアの指が止まる。
停滞管理。
その単語が、
背筋を静かに冷やした。
ページをめくる。
そこには、
過去数十年に渡る統制計画が記されていた。
発展率上昇時の規制導入。
市場流通制限。
未承認技術の封鎖。
そして、
各項目の末尾に、
同じ記載。
“承認済”
“管理層確認済”
レティシアの視線が止まる。
……管理層?
知らない言葉だった。
神殿上層部ではない。
王家でもない。
貴族会議記録にも存在しない。
主任も資料を覗き込み、
眉をひそめる。
「聞いたことがありません」
レティシアは次のページを開く。
そこには、
短い一文だけが残されていた。
“急速発展は均衡崩壊を招く”
“世界安定維持のため、
周期的制限を継続する”
世界。
国家ではない。
王国でもない。
もっと大きい。
その瞬間、
地下資料庫の静けさが、
急に重く感じられた。
今まで見えていたもの。
神殿。
貴族。
国家停滞。
それら全部が、
さらに上位の意思によって動かされている可能性。
まだ正体は分からない。
誰なのか。
どこにいるのか。
何を目的にしているのか。
何一つ分からない。
だが、
確かに存在している。
世界規模で、
発展と流れを制御する“何か”が。
レティシアは静かに資料を閉じる。
その視界の奥に、
淡い表示が浮かび上がった。
CONTROL STRUCTURE
UNIDENTIFIED
HIGHER AUTHORITY
DETECTED
SYSTEM MANAGEMENT LAYER
PARTIALLY EXPOSED
地下資料庫の冷気が、
静かに空気を満たしていた。
そして今、
彼女たちはようやく、
世界の“上層”へ触れ始めていた。