この作品について
間宮玲司は、何一つ終わらせられないまま死んだ。
仕事も、勉強も、恋も。
投稿していた異世界転生小説も、すべて途中で更新を止めていた。
完成させなければ、失敗作だと決まることもない。
いつか続きを書くと言っていれば、まだ可能性は残っている。
そうやって結果と責任から逃げ続けた玲司は、想い人へ送れなかったメッセージと、最後の一文がない物語を残して生涯を終えた。
異世界でレイルという少年へ転生した彼の魂から生まれたのは、固有スキル【未完】。
完成直前の物事から「最後の一工程」を奪う力だった。
小説は最後の一文だけ書けない。
母親の刺繍は最後の一針だけ結べない。
パンは何度焼いても中心だけが生焼けになる。
鍛冶師の剣は、最後の仕上げだけが終わらない。
レイルの近くでは、誰かが積み重ねた努力が決して実を結ばない。
村人たちは彼を恐れ、「仕事殺し」「終わらずの子」と呼んだ。
両親は息子を守りながらも、彼の力が生んだ損害から逃げなかった。
幼なじみのリィナだけは、レイルの間違いを叱りながら、彼自身を見捨てなかった。
レイルは他人を守るため、自分の小説を意図的に未完のまま抱える。
やがて彼は、【未完】が完成を消しているのではないと知る。
奪っているのは、物事が世界へ確定する最後の一工程。
それならば、剣撃も。
魔法も。
治癒も。
敗北も。
死さえも。
完成直前で抱え、必要な瞬間に返すことができる。
かつて何も完成させられなかった少年は、無数の未完を背負う大魔導士へ成長していく。
一方、世界を支配する神は、人間の失敗と後悔を終わらせるため、すべての人生を唯一の正しい結末へ固定しようとしていた。
誰も間違えない。
誰も失わない。
誰も選ばなくてよい、完璧な世界。
しかしレイルは知っている。
完成していないからこそ、続きを選べるものがある。
一つを終わらせるからこそ、次を始められることもある。
そして彼の隣には、なぜか前世からずっと待っていたような目で彼を見る、幼なじみの少女がいる。
前世で終わらなかった恋。
今世で始まった二人の人生。
世界を完成させようとする神。
これは、完成を恐れて逃げ続けた男が、何を終わらせ、何を未来へ残すのかを自分で決めるまでの物語。
「終わらせるのは、俺が決める」